住宅産業のDX化を目的に設立された一般社団法人住宅DX推進協議会(以下:JDX)は、アートフォースジャパン、地盤ネット、ハウスワランティ、サムシングといった地盤分野を代表する企業が集まり、MSJグループ代表の鵜澤 泰功も理事として参画しています。
先日行われたJDX主催のイベントでは、地盤DXマップの新機能や、法改正への対応などの業界最新情報、地盤事故事例の分析結果といった幅広いテーマが発表されました。参加者からは「役に立った」との声も多く聞かれ、未来通信編集部ではこのイベントの様子を前後編にわけてレポートしていきます。
イベントレポート前編
イベントレポート後編
後編テーマ:モノ・情報・お金の一体化が描く未来
後編は、MSJグループ代表の鵜澤と、ネットイーグル株式会社の長谷川 大介氏が登壇した「特別講演」のレポートです。未来通信のコラム「時流を読む」でもお伝えしてきた、住宅産業のDX化が必要な背景や、BIMやステーブルコインなどの電子マネーの活用について、プレゼンテーションが行われました。
最初に鵜澤は、「マネタイズ(収益化)」の視点を提示。商売の基本は、モノが動く前に、必ず情報が発生すること。情報→モノ→お金の順で進み、DXは情報とお金の分野の合理化に大きく貢献すると述べました。
なかでも特に重要な情報が、杭の本数や立米など「モノの正確な量」。これをスムーズに導き出す有効なツールとして、ネットイーグルの長谷川氏が現在開発中の「地盤補強設計計算システム」を紹介しました。
プレカットCADのトップシェア企業が挑む住宅DX
木造建築物の9割を支える技術と実績
ネットイーグルは、木造建築物のプレカット用CAD/CAMシステムの開発販売を行っており、現在木造建築物の90%以上がプレカット加工される市場において、62%のシェアを占めるトップ企業です。
幅広い木造工法に対応するほか、最近ではサイディングや石膏ボードなど建築資材のプレカットにも対応しています。

ネットイーグル株式会社 長谷川 大介氏
法改正対応と高まる構造計算のニーズ
本システム開発のきっかけは、4号特例の縮小。構造計算の重要性が増すなかで、設計支援サービスの市場では住宅会社への付加価値向上のため、あえて許容応力度計算を実施するケースが増加。
長谷川氏は、上物に加えて基礎の構造計算の必要性も高まっていると述べました。
地盤補強の「最適解」を導くシミュレーション
「地盤補強設計計算システム」の最大の特徴は、ネットイーグルCADにある上物の構造計算データと基礎の設計データを用いて、リアルな荷重に基づいた地盤改良・補強を簡単に計算できることです。

実際の荷重に基づき必要本数を計算。最もコスト効率の良い落としどころを探せる
システムのデモンストレーションでは、上物のプレカットデータに含まれる梁や柱の情報を活用しつつ、荷重情報や地盤調査結果も取り込むことで、地盤補強設計の様々なパターンをシミュレーションできる様子が示されました。
長谷川氏は「物件ごとに現実的な地盤補強を検討でき、最適解を探せる」と強調。基礎躯体データを設計・受発注・現場検査など全体プロセスでも活用できるよう、BIMとの連携も進めていると締めくくりました。
モノ・情報・お金の一体化がもたらすDX革命
講演のバトンはふたたび鵜澤へ。「住宅・建設の産業ビジョンを如何に描くか」をテーマに、プレゼンテーションがなされました。
鵜澤は、住宅DXにおいては情報の「部分適合」ではダメだと強調。プレカットデータを地盤補強シミュレーションに活用するように、住宅形成プロセスでの「全体適合」が重要だと説きました。

DX革命について説くMSJグループ代表 鵜澤 泰功
部分適合から全体適合へ~BIMが担う情報の連携~
その核となるのが、未来通信でも何度か取り上げている「BIM」。
BIMは単なる3次元CGではなく、住宅部品ひとつひとつに形状・数量・サイズ・単価などの情報を埋め込んでパーツ化し、バーチャル上で組み立てる設計手法です。部品の数量と単価がデータ化されており、自動積算が可能。施工図にも展開できるため、設計・施工工程を画期的に合理化できる可能性を秘めていると説明しました。
DX革命の本丸~新たな電子マネー「テーブルコイン」を活用~
鵜澤が、今後BIMに加えて鍵になる説くのが新たな電子マネー「ステーブルコイン」。ビットコインなどの暗号資産と異なり、日本円や米国ドルと常に同額で、安定した価値を持っています。
2025年9月1日、ゆうちょ銀行がステーブルコインの一種である「トークン化預金」を、来年4月から始めるという報道がされました。鵜澤は、金融業界が根底からひっくり返るほどの出来事であり、建材や工事代金の電子決済化も今後進むと述べました。
ステーブルコイン最大のポイントは、即時決済ができること。経理の効率化のみならず、売掛金・買掛金といったリスクがなくなります。また、お金をプログラム化するため、例えば「田中邸建設プロジェクト限定資金」といったように、決済目的を指定することも可能に。送金・決済手数料も安価なため、今後様々な分野での活用が期待されています。
情報と金の一体化により、決済リスク排除・経理業務効率化
鵜澤は、「正確に積算できるBIMと、即時決済できるステーブルコインを組み合わせることで、実務の担い手に対して、納品・工事完了と同時に資金を届けられるようになる」と力説しました。
黙って死を待つな!JDXが描く産業の未来図
GAFA型DXがもたらす「デジタル小作」の末路~
講演の最後、鵜澤はDXがもたらすリスクについても警告しました。DX化が進むと、GAFAのようなプラットフォーマーが情報・金・物流のすべてを握る勝者総取りとなり、それ以外は「デジタル小作」となり圧倒的格差が生まれるというリスクです。
住宅産業にある私たちは、デジタル金融経済によって世界を掌握しつつあるGAFAではなく、人々の暮らしに不可欠な実体経済の担い手です。なかでも、中小企業という「弱者」は、如何にして戦うべきなのでしょうか。
対抗策は、非営利団体JDXによる独自マネタイズ
鵜澤は、この難題に立ち向かうために、ドラッガーの著書『非営利組織の経営』を引用し、一般社団法人という非営利団体としてのJDXが果たすべき役割を力説しました。
JDXの役割は、住宅形成プロセス全体の合理化に向けて、モノ・情報・お金の連携を独自に進めること。中小企業が非営利団体であるJDXに集まることで、自身の個性や強みを生かしながらも、一致団結し利益をきちんと享受できる仕組みをつくること。
鵜澤は「このままでは黙って死を待つことになる。JDXのビジョンを共有いただき、ぜひ入会してほしい」と熱く締めくくりました。
イベントアーカイブを公開しています
登壇資料とプレゼンテーションをそのまま体感できるアーカイブ動画を現在公開中。JDX公式サイトより視聴お申し込みを受け付けています。あわせてJDXのツール活用と入会をぜひご検討ください。