翌日交付は実現するか リモート検査・ネットワークによる未来

サービス導入事例

2025年4月の法改正は、確認検査機関にも混乱をもたらしました。
北海道トップシェアの確認検査機関、株式会社サッコウケンの代表取締役社長 兼平 久氏、常務取締役 川村 宏二氏と、MSJグループの株式会社ハウスジーメン 代表取締役社長 道下 佳紀が、現場の課題と未来戦略について対談しました。

決め手は「地域性」と「無料化」 リモート検査成功の戦略

サッコウケン兼平さん 最近の取り組みとして、建築確認の完了検査で「リモート検査」を始めました。2025年6月に函館エリア限定で開始してから、100件ほど実績が出たところです。

ハウスジーメン道下 順調な滑り出しですね。ハウスジーメンでも、瑕疵保険の分野でいち早く「リモート検査」を始めました。建築確認と瑕疵保険では違いはあるものの、サッコウケンさんではリモート検査料を無料にしていますよね?

兼平さん これには、北海道の地域性が関係しています。もともと倹約な道民性に加えて、地方では行政に確認申請を出す慣習もあります。なので、検査補助員が現場に出向いても「検査員が来ないのに、なぜ日当交通費(検査料)を取るのか」という反応が多く、有料化は難しいと判断しました。

サッコウケン川村さん 無料だとインパクトもあり、営業としても話題性があります。その結果、これまで苦戦していた函館エリアでも申請数を伸ばすことができました。

(左から)兼平 久 代表取締役社長、川村 宏二 常務取締役(株式会社サッコウケン)

川村さん 従来使っていた確認検査機関の法改正対応に不安を覚えていた住宅会社さんが、リモート検査をきっかけに当社に切り替えたケースも多く、法改正のタイミングも味方してくれたと思います。

兼平さん 実は今まで、札幌以外の地方に行けばいくほど、営業はできていなかったんです。今はリモート検査が、新規顧客開拓のきっかけになっていますね。

道下 当社で提供している瑕疵保険のリモート検査は、検査補助員の派遣を行わないため、開始当初は現場監督から「自分が操作をするのか」といった戸惑いの声もあがりました。

兼平さん 建築確認のリモート検査では、そういった声は全くありませんでしたね。北海道は内地と違い、町と町が離れていますから、もともと検査員を手配しにくいんです。

「とにかく早く確認を下ろしてほしい」というニーズの方が強いので、住宅会社さんも新しい技術に前向きです。来年の4月には、リモート検査の全道対応を目指します。

建築確認の未来ビジョンとネットワーク戦略

道下 国の施策として、BIMを活用した確認申請が2026年度から段階的にスタートし、2029年の本格始動を目指しています。

また、AIを活用した建築確認申請図書作成支援サービスも始まりましたが、現状は申請図書の不備を確認するスクリーニングが主な機能。確認検査機関からは「審査側でこそ使いたい」という声が上がっています。まだよちよち歩きですが、前進していることは間違いないですね。

兼平さん 国は審査期間の短縮化を目的に、BIMによるデータ審査に着目しているのは間違いありません。ただ私も、審査側にこそAI活用システムが必要だと考えています。

川村さん BIMやAI審査による効率化は理想の姿です。その一方で、もしそうなったら審査員がいらなくなり、僕らの仕事が減るのでは、という懸念も感じてしまいますね。

兼平さん 住宅会社さんから見れば、空いている機関に出せるのは良いことです。人口減少で技術者が減るこの時代には、ネットワーク化や最新技術の活用は必須でしょうね。確認機関で上場しているのはERIグループだけですから、私も親会社に、AIやBIMを使って業界の最先端を牽引する使命があると提案していますよ。

協業が拓く「建築コスト削減」の野望

道下 この問題の根本は、全国各地に民間確認検査機関が120社以上もあり、それぞれがバラバラに業務をこなしている不合理さにあります。MSJグループの代表は、この課題解決のためのプラットフォーム構想を持っています。

兼平さん どういった構想でしょうか。

道下 リモート検査やBIMといったツールを使いながら、確認検査機関が連携し、合理的に確認検査を回していくという構想です。これは、強者が一方的に支配するのではなく、リソースをシェアし、協業していくという考え方に基づいています。

互いに別会社として自由に経営できる余地を残しながら、生き残りのために手を組む「協業によるネットワーク化」こそが目指す姿です。

道下 佳紀 代表取締役社長(株式会社ハウスジーメン)

兼平さん 私も干渉されるのは苦手で、自由に経営したいタイプです。 確かに、M&Aだと支配権などのしがらみが出てきますが、ネットワーク化であればそれがないですもんね。

道下 その先には、住宅産業そのものを合理化していくという狙いがあります。確認申請をはじめ、様々な住宅形成プロセスをつなげていって、産業そのものを合理化する。MSJグループは金融機関でもありますので、様々な商取引の決済を担うという構想です。

兼平さん 商慣習上、確認検査機関は営業に積極的ではないので、双方にとって新たなビジネスチャンスだと思いますね。「瑕疵保険の方からルートを確保し、確認を早く下したいならこのネットワークを通す」という仕組みができれば大成功ではないでしょうか。

道下 まさにそうですね。ハウスジーメンにも「早く下りる確認検査機関を紹介してほしい」という声が殺到しています。旅行予約の楽天トラベルのように、スケジュールに合う確認検査機関を選べるような世界観になっていくんじゃないかと思いますね。

兼平さん ネットワークで図面などをデータ連携できれば、翌日には交付できる時代も夢ではないかもしれませんね。これこそ、住宅会社にとっての最大のメリットではないでしょうか。

道下 私もそう思います。本日はありがとうございました。

兼平さん・川村さん こちらこそありがとうございました。

会社情報

社名株式会社サッコウケン( ウェブサイト
所在地北海道札幌市
創業1974年10月
事業内容建築基準法における指定確認検査機関に関する業務 ほか
株主ERIホールディングス株式会社( ウェブサイト